ロードバイク初心者はアルミフレームを買うべし!KhodaaBloomのFARNAーSLから読み解く、アルミフレームのすごいところ【パイプ形状編】

COLUMN
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みなさん、日々の生活ご苦労様です。

ギョーテンです。

前回から大分時間が経ちましたが、諦めず最後まで連載を続けていきます。

【ブランド編】、【素材編】と続き、今回は【パイプ形状編】です。

※前回記事の内容は↓のリンクからご覧ください。

FARNA-SLのフレームを構成する各パイプの形状から、その設計意図を読み解いていきます。

最初に、考察した結果を簡単に紹介しておきます。

  • 一見、単純な直線で構成されたフレームのように見えるが、細部をみるとそれぞれのパイプにかかる力の作用に応じたパイプ形状を採用しており、構造力学的に非常に理にかなった形状をしている。
  • 設計の方針として、剛性と快適性の判断が分かれる部分では、「剛性値の向上」を優先したパイプの形状を採用しており、競技用フレームとして一貫した設計がなされている。
  • 空力面での考慮はほぼない。

※今回の記事は、自転車雑誌cyclesportsの連載企画「自転車道」の内容を基に独自に考察しています。ロードバイクの構造について詳しく取材されていますので、興味のある方は是非本も読んでみてください。

パイプの形はフレームの剛性に影響するのか

よく、ロードバイクのインプレッション記事で、

「最高ランクの素材を採用することで、前作より剛性が向上しているのがわかる」

みたいに、素材にのみ言及した内容のインプレがたまにありますが、フレームの剛性を語るうえで必要な要素は素材だけではなく、フレームの各種パイプ形状にも着目しなければなりません。

まあ実際には、素材とパイプ形状に加えて、各パイプの肉薄加工や接続方法も剛性に関係してきますし、カーボンフレームの場合は、そこへ更にカーボンシートの繊維方向と積層パターンも加わってくるため、非常に複雑な構造を読み解かなければなりませんが、素人では無理なので、今回はパイプ形状のみに着目しています。

構造力学では剛性(物質の変形のしにくさ)を示す基本的な公式として、下の公式があります。

曲げ剛性=縦弾性係数×断面二次モーメント

※曲げ剛性:いわゆる「剛性」。力が加わった際の「曲げ変形のしにくさ」。
※縦弾性係数:素材そのものの変形のしにくさを表す値。ヤング率ともいう。
※断面ニ次モーメント:素材に力が加わったときの変形のしにくさを表す値。同じ物質でも断面(形や大きさ)によって値が変化する。

つまり、素材としての剛性が低いものでも、断面形状の工夫により断面二次モーメントを高くしてやれば、高い剛性を持つフレームを作ることが可能、ということです。

Khodaabloom FARNA-SLの加工方法(成形と溶接)

実際のパイプ形状を解説する前に、FARNA-SLの各パイプの成型に使用されている技術をご紹介します。

トリプルバテッド

バテッドというのは金属系チューブ(パイプ)に多い加工です。

自転車を構成しているチューブにかかる力は、パイプを結合している端部が最も大きく、中央部にかかる力は比較的小さいという現象を利用し、パイプの中央部の肉厚を薄く、両端の(または加圧側だけの)肉厚を厚くする加工方法です。

この加工方法なら、必要な部分の強度を落とさずに、軽量化が可能になります。

バテッドにも種類があり、両端を厚く、中央は薄くしたダブルバテッド、片方の端だけ厚く、中間は普通、力がかからない側は薄くしたトリプルバテッドがあります。

ダイワサイクル公式HPより(https://www.daiwa-cycle.jp/feature/column/15)

FARNA-SLのチューブはトリプルバテッド加工がされてるので、極限まで軽量化を目指して設計している、という意図が読み取れます。

ハイドロフォーミング

ハイドロフォーミング(別名バルジ成形)とは、金型にセットしたパイプに超高圧の液体を充填しながらパイプの両端を軸方向に圧縮し、金型に彫り込まれた形状へ一挙に加工する金属パイプの中空成形方法です。

従来の金型にプレス機で押しあてるプレス加工と比べ、複雑な形状の加工が可能となり、必要部品数の削減や軽量化が可能というメリットがあります。

参考ページ:バルジ成型とは?(日工産業株式会社)

スムースウェルディング

スムースウェルディングについて、ネットで調べてみたのですが、どうも自転車メーカー内での溶接後の仕上げに関するオリジナルな表現らしく、詳細な内容についてはネット検索程度では情報が出てきませんでした。

唯一、GIANTの公式HPで多少の解説を見つけましたので紹介させていただきます。

スムースウェルディング(応力集中を避けるためのダブルパス溶接技術と手作業による研磨

GIANT公式HPより(https://www.giant.co.jp/giant17/technology_sub.php?tec_name=aluminum_tech#outline)

スムースウェルディング = ダブルパス溶接+手作業の研磨

ということなので、ダブルパス(日本語では両面溶接)について調べてみました。

両側溶接ともいい、例えば溶接しようとする2つの母材を突き合わせて溶接するような場合、部材の表と裏の両側から溶接することを両面溶接という。また片側からのみ溶接することを片面(または片側)溶接というが、片面溶接に比べ両面溶接は強度的には有利であるが、母材の板厚によっては、溶接条件の設定により溶け込みを深くし、片面溶接でも十分な溶接強度が得られる場合がある。

weblio辞書より(https://www.weblio.jp/content/%E4%B8%A1%E9%9D%A2%E6%BA%B6%E6%8E%A5)
weblio辞書より

つまり、チューブの接合部を表と裏両側から溶接することで、表面を滑らかに磨いたとしても十分な強度を確保できるため、見た目と強度が両立できる技術、ということのようです。

FARNA-SLにはこれら3つの技術を用いて加工・成形された各パイプによって構成されています。

各パイプの形状とその役割

それでは、ここからFARNA-SLのフレーム各部のパイプ形状と、その設計意図を解説していきます。

なお、ここで紹介する解説は、あくまで個人の推測によるものです。

メーカーの裏付けがあるわけではありませんので、参考程度に楽しんでください。

フォークブレード

前輪とヘッドチューブ、ステムをつなぐ部分。

挙動パイプにかかる力
加速時
(ダンシング時)
自転車が左右に傾くため、路面から斜め上方向かつ横方向の力がかかる。
制動時キャリパー取付部(フォーククラウン部分)に前方向の力が、エンド部には後ろ方向の力がかかる。

FARNA-SLのフォーク形状はストレートで、クラウン側からエンド側に向かって次第に細くなります。

断面形状は、前部分が横に張り出した、前後に長い翼断面形状です。

前後に長いのは、制動時にフォークへかかる力に対して、横に張り出しているのは加速時の横方向の力に対して、それぞれ剛性を確保するためと思われます(多少は空力にも寄与しているのかも?)。

また、フォークコラムは上が1-1/8、下が1-1/4のテーパードヘッドです。

これは、制動時の主な力は、クラウン側に近いコラム下部に大きくかかるため、上より下を太くすることで強度・剛性面の両面で有利に働くためと思われます。

1-1/8~1-1/4のテーパードヘッド

ダウンチューブ

ヘッドチューブとボトムブラケットをつなぐ部分。

挙動パイプにかかる力
加速時
(ダンシング時)
左ペダルを踏みこんだ時、ヘッドチューブ側は右方向にねじられ、BB側は左方向にねじられつつ、右に曲がる力がかかる(右ペダルを踏み込んだ時はそれぞれ逆の力)。
制動時ヘッドチューブ側は上方向の力が、BB側は前向きに押す力が加わり、結果、ヘッドチューブ側に近い位置で上方向へ曲げられる力がかかる。

FARNA-SLのダウンチューブは、ヘッドチューブ側が縦長の四角断面で、BB側に近づくにつれて横幅が広い長方形断面へ変化しています。

ヘッドチューブ側の縦長四角断面は、制動時に「ヘッドチューブに近い位置で曲げられる力」に対応するための工夫で、BB側の横長四角断面は、加速時に「左右へ曲げられる力」に対応するための剛性を確保するためと思われます。

また、ダウンチューブの上側の角が丸みを帯びていて、断面はいわゆるかまぼこ型をしています。

この加工は、断面積を小さくすることによる軽量化を目的としているのではと推測できます。

角に丸みを帯びたダウンチューブ上側

トップチューブ


ヘッドチューブとシートチューブをつなぐ部分。

挙動パイプにかかる力
加速時
(ダンシング時)
左ペダルを踏みこんだ時、同時に左手でハンドルを引き付けるためヘッドチューブ側は右に傾き、シートチューブ側は左に傾く。結果、S字状に曲がる力がかかる(右ペダルを踏み込んだ時はそれぞれ逆の力)。
制動時シートポストが前方向に曲がる力により、下方向に曲げられる力がかかる。

FARNA-SLのトップチューブは、横幅の広い、台形に近い下三角形の断面をしており、その横幅はヘッドチューブ接続部が一番広く、シートチューブに近づくにつれて狭く、うすくなっていきます。

これは、加速時のS字へ曲がる力へ対応するための剛性確保と、走行時の路面段差による下からの突き上げの力が加わった際に上下に曲がりやすくすることで、快適性を上げよう(衝撃吸収性の向上)という意図があると思われます。

また、ヘッドチューブ側の横幅が広いのは、加速時はペダルの踏み込み以外にハンドルを体に引き付けるという力が発生するため、ヘッドチューブ側の方が加わる力は大きいため、ヘッドチューブ側が太くなっていると思われます。

加えて、FARNA-SLのトップチューブはスローピング形状を採用しています。

スローピング形状のフレームは、部材が少なくなることによる軽量化、フレームの前三角と後三角が小さくなることによる高剛性化、そして、低重心化による走行時の安定性向上の効果があるといわれていますので、カーボン製より重くなりがちな金属フレームにとってメリット大きいため採用したのではと思われます。

スローピング形状のフレーム

シートチューブ


シートポストの挿入部分で、前三角と後三角をつなぐ部分。

挙動パイプにかかる力
加速時
(ダンシング時)
左ペダルを踏みこんだ時、BB側は右方向に曲げられ、上側(シートステイやトップチューブ接合部)はねじれの力がかかる(右ペダルを踏み込んだ時はそれぞれ逆の力)。
制動時サドルから前方向に押し出すように体重がかかるため、上側(シートステイやトップチューブ接合部)に前方向に前転するような力が加わり、後ろ方向へ曲げられる力がかかる。

FARNA-SLののシートチューブは、上部分は一般的な円形断面で、BB側へ近づくにつれて横幅の広い長方形断面へ変化しています。

これは、上側ではねじれに強い円形断面、BB側は左右への曲げに対応するための剛性確保をする意図があると思われます。

また、挿入できるシートポスト径は30.9mmです。

ロードバイクで一般的に採用されているシートポスト径は27.2mmなので、FARNA-SLのシートポストは少し太いです。

ここでもおそらく、ねじれに対する剛性を確保するためにあえて太い径を採用したのではないでしょうか(もしくは、バテッド加工によって30.9mmの方が薄く加工出来て軽量化につながるとか?)。

ちなみに、後ろ面にはつぶし加工がされており、チェーンステーの長さを短くしてもタイヤがフレームに接触しないような工夫がされています。

※チェーンステー長を短くすることによる効果は、次回の【ジオメトリー編】で詳しく開設予定ですが、短くすることで加速時の反応性が向上するといわれています。

つぶし加工を入れることで、チェーン長を短くできる

シートステー

シートチューブと後輪をつなぐ部分。

挙動パイプにかかる力
加速時
(ダンシング時)
左ペダルを踏みこんだ時、エンド側に路面からの反力が左上向きにかかり、駆動力がハブ軸を通じて前方向にかかる(右ペダルを踏み込んだ時はそれぞれ逆の力)。
また、右側のみ、チェーンの張力(前後方向の圧縮力)が加わり、非常に複雑なねじれと左右へ曲げる力がかかる。
制動時エンド側から後ろ方向の力と、キャリパー取付部より下方向の力が加わり、シートステーは下方向に曲がる力がかかる。

FARNA-SLのシートステーは、ほぼ正方形に近い四角断面です。

シートステーは、細く加工し、しならせることで振動吸収性の向上に一役買うことを目的とした設計が多いのですが、FARNA-SLのシートステーは際立って細いわけではありません。

おそらく、振動吸収性よりも加速時の左右への曲がりに対応する剛性の確保を意図しているのではないかと思います。

ちなみに、シートステーによる振動吸収性の向上方法として、シートステーの接続位置を下げる「コンパクトリア三角デザイン」があります。

シートチューブ側の接続位置を下にずらすことで、シートチューブのしなり量を増やし、振動吸収性を高める、という意図があるようです(あとは空力性能の向上)。

ただし、この設計はシートチューブのしなりが大きくなることで、従来デザインよりも強い強度の確保が要となり、フレームの重量増につながるというデメリットがあります。

カーボンフレームなら素材の変更などでカバーできるのでしょうが、アルミフレームでは限界がありますので、重量増を避けるため、もしくは、振動吸収性よりも剛性を重視し、不採用になったのでしょう。

チェーンステー


BBと後輪のハブをつなぐ部分。

挙動パイプにかかる力
加速時
(ダンシング時)
左ペダルを踏みこんだ時、エンド側には駆動力がハブ軸を通じて前方向の力と路面からの上方向の力(重力の反力)がかかり、BB側は右方向へ曲がる力がかかる。(右ペダルを踏み込んだ時はそれぞれ逆の力)。
また、右チェーンステーのみ、チェーンからの張力によって常に圧縮方向の力を受けている。
制動時エンド側から後ろ方向の力がかかる。

FARNA-SLのチェーンステーは、BB側は縦長の四角断面で、エンドに向かうにつれて円形断面へ変化し、断面積も小さくなっています。

チェーンステーは、「自転車道」によれば加速時に左右方向へ曲がる力と路面からの突き上げに対応するため、理想の形状は横長断面が良いらしいのですが、ホイールとクランクの間の狭いスペースでは理想的な横長断面を確保するのが難しく、パイプの強度や剛性を確保しようとした苦肉の策として、縦長断面を採用するメーカーが多いとのこと。

FARNA-SLも多分に漏れず、BB側を縦長の四角断面にしています。

エンド側を円形断面にして細くしているのは、少しでも振動吸収性を向上させようという結果ではないかと思われます。

各パイプ形状について考察した結果の総括

各パイプをそれぞれ考察した結果をまとめると、

  • 一見、単純な直線で構成されたフレームのように見えるが、細部をみるとそれぞれのパイプにかかる力の作用に応じたパイプ形状を採用しており、構造力学的に非常に理にかなった形状をしている。
  • 設計の方針として、剛性と快適性の判断が分かれる部分では、「剛性値の向上」を優先したパイプの形状を採用しており、競技用フレームとして一貫した設計がなされている。
  • 空力面での考慮はほぼない。

ネットで確認できるインプレ記事では、FARNA-SLはよく「剛性が高く、加速時の反応が良いが、硬くてロングライドには向かない」と評されることが多いようですが、今回のパイプ形状を見てその理由が少し理解できました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

ロードバイクのレビュー記事では、乗った時のインプレッション記事はよく見かけますが、フレームそのものに着目した内容というのはあまり見かけません。

ただ、各パイプそれぞれの役割やパイプ断面の基本的な性質を理解したうえでフレームを眺めると、ぱっと見同じに見えるフレームでも、それぞれ設計者の創意工夫が見えるようになります。

まあ、分かった風なこと書きましたが、所詮ど素人の妄想に過ぎない考察ですので、「こんな考え方もあるのか」と、軽く聞き流していただければ幸いです。

皆さんも、自分の愛車を隅から隅まで観察し、設計者の意図を妄想してみてはいかがでしょうか。

次回は、【ジオメトリー編】です(夏までには公開したい)。

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